2004/12 その名にちなんで(ジュンパ・ラヒリ)
移民の小説って、どうしてこんなに心を打つのでしょう。誰でも感じる「現実の世界へのとまどい」に常にダイレクトにさらされながら、新しい社会と文化に根を張っていこうとする力強さを感じさせてくれるのが、移民の人たちだからなのでしょうか? 『その名にちなんで』は、今年の年間でもBest1です。
1.その名にちなんで(ジュンパ・ラヒリ)
ロシア作家の名を持つ、インド系アメリカ人が抱く違和感。違和感あるのは名前?人種?国籍?結婚?それとも人生に?。1967年生まれの著者が、同世代の男性を主人公に据えて、名前の問題を中心にしながら、移民の持つ新世界と祖国へのとまどいを見事に描き出してくれました。2つの大陸と2つの世代にまたがる人生が浮かび上がってきます。
ジブリの映画で有名な作品ですが、原作があったのですね。暗いお届け物のせいで、心まで暗くなってしまうキキ。ライバル魔女の出現に、心の動揺を隠せないキキ。周囲の人たちの暖かい心や、自然の癒しに触れて立ち直るキキ。読者としては、彼女の心が揺れ動くたびにハラハラしちゃうけど、誰もがそうやって悩みながら成長してきたのですね。
3.プラダを着た悪魔(ローレン・ワイズバーガー))
田舎娘のアンドレアは、あこがれのファッション雑誌業界に就職。超大物編集長のミランダのアシスタントとして働き始めます。ところが、ところが、ミランダ編集長のワガママは悪魔的。ミランダの「鉄のルール」にひたすら服従するアンドレアですが、気がつくと彼女自身も、ボスの威を借りて周囲に指示している! 「悪魔に魂を売る」ことに疑問を感じたアンドレアは、ついに・・。
次点
・裏庭 (梨木香歩)
・パパのさがしもの (ジョージ・オファレル)
その他今月読んだ本
・父の輝くほほえみの光で (アリス・ウォーカー)
・魔法使いハウルと火の悪魔 (ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)
・マジック・サークル (キャサリン・ネヴィル)
・超・殺人事件 (東野圭吾)
・ギボンの月の下で (レイフ・エンガー)
・マレンカ (イリーナ・コルシュノフ)
・13階段 (高野和明)
2005/1/10
2004/11 妹とバスに乗って(レイチェル・サイモン)
11月のベストは、文句なしに『妹とバスに乗って』。知的障害を持つ妹と、きっちり向き合った姉が綴った実話です。それ以外にも、記憶に残る本がたくさんありました。
1.妹とバスに乗って(レイチェル・サイモン)
レイチェルは軽度の知的障害を持つ妹にきちんと向き合おうと、妹べスの趣味に合わせて一緒にバスに乗り込みます。書かれているのは綺麗ごとじゃない。レイチェルはベスに対して、時には感心しながらも、時には猛烈に腹を立てる。自分がそういう立場だったら、どう接することができるのか? 一冊の本が世界を見る目を変える。そんな経験のできる本です。
2.ワーキングガール・ウォーズ(柴田よしき)
総合職エリートで実績もあるのに、今では「お局さん扱い」で「会社の嫌われ者」役になってしまった、37歳の独身女性が、気分転換に出かけたオーストラリアで出合った女性たちと女同士の友情を育みます。もちろん会社でも活躍。それはともかく「出来る女性」がどうしてこんな目に合うのでしょう。男女雇用均等法の一期生ももう40代。 彼女の悩みはトップランナーの悩みです。
3.官能小説家(高橋源一郎)
現代に復活して好き勝手やり放題の森鴎外と、明治の世で樋口一葉に恋する半井桃水。時代や登場人物が現代と明治をクロスオーバーして、ついには鴎外と一葉が不倫するに至ります。収拾つかない展開のまま本書は終わってしまうのですが、残ったものは「現代小説への問いかけ」でしょうか。
次点
・ニコチン・ウォーズ (クリストファー・バックリー)
・サイレント・ジョー (ジェファーソン・パーカー)
時間の無駄
・油田爆破 (トム・クランシー)
・殺戮兵器を追え (トム・クランシー)
その他今月読んだ本
・毒見役 (ピーター・エルブリング)
・アベンジャー (フレデリック・フォーサイス)
・西瓜王 (ダニエル・ウォレス)
2004/12/5
2004/10 オウエンのために祈りを(ジョン・アーヴィング)
やっぱり小説は、ストーリーが面白くなくちゃね。^^
今月は、楽しく読めた本がたくさんありました。
1.オウエンのために祈りを(ジョン・アーヴィング)
稀代のストーリーテラーが描いた奇跡の話。小川洋子さんが「大人が泣ける」として紹介していました。小さくて変な声で、誰からもからかわれていたオウエンが生きてきた目的は、「神の道具」としての役割を果たすことだったのです。小説におけるデテイルの生かし方は、最高です。
唐で起こる不思議な出来事に挑むのは、日本から留学中の若き空海。楊貴妃の死後50年。廃墟と化した華清宮で開かれる宴に、半ば鬼と化した存命者たちが集うクライマックスは大迫力。全てに決着をつけたのは、生き残っていた意外な人物でした。空海のキャラが陰陽師の清明とそっくりなのは、賛否が分かれるかもしれませんね。
3.ロケット・ボーイズ(ホーマー・ヒッカム・Jr)
ソ連に遅れをとったアメリカのロケット開発をなんとかしなきゃ! 不況の炭鉱町で、変わり者扱いされてもロケット実験に励む男の子たち。「炭鉱命」の父親からは叱られるし、失恋もしちゃうけど、彼らは色んなものを得ることができました。後にNASAのロケット技術者になった著者が、青春時代を振り返ります。
次点
・天使と悪魔 (ダン・ブラウン)
その他今月読んだ本
・わたしはロボット (アシモフ)
・峠 (北原亜以子)
・恐竜レッドの生き方 (ロバート・バッカー)
・大河な日々 (三谷幸喜)
・村田エフェンディ滞土録 (梨木香歩)
・四日間の奇跡 (朝倉卓弥)
・8月の博物館 (瀬名秀明)
2004/11/3
2004/9 ベルカント(アン・パチェット)
再読でしたので次点にしか入れていませんが『風車祭(カジマヤー)』は最高! この人の沖縄小説は、破天荒な設定にもかかわらず、「生きる」ということの意味を考えさせてくれます。
1.ベルカント(アン・パチェット)
この本の下敷きになったのは、ペルーの日本大使館占拠事件。幽閉生活の中でオペラ歌手・ロクサーヌが歌い、事態が変わっていく。各国の要人たちは、出世の為に犠牲にした人生を思い出し、テロリストの貧しい子供たちは、美しい世界があることを知るのです。でも、ある意味「幸福な」奇妙な日々にも終わる時が来ました・・。
2.てるてる坊主の照子さん(なかにし礼)
普通の大阪のパン屋の奥さんとして、4人の娘を育てた照子さん。ところが、彼女の4人の娘は、みんな普通じゃない! フィギュアスケートのオリンピック選手や、女優の「いしだあゆみ」を育て上げた、とにかく元気な照子お母さんと、明るい家族のストーリー。NHKの朝ドラでは浅野優子さんが演じていましたね。^^
3.ぼんくら(宮部みゆき)
最初の数話を読んだ限りでは、できのいい短編小説集。ところが、全体の2/3を占める長さの第6話「長い影」に至って、今までの短編が全て前フリだったことがわかります。それまでに解決していたはずの事件や、他愛もない出来事が、別の見方をすることによって、全て違った意味を持ってくるのです。こういう上手なストーリーに出会うと、嬉しくなりますね。^^
次点
・サーカスの犬 (リュドヴィック・ルーボディ)
その他今月読んだ本
・魔女たちの競宴 (ロシア女性作家選)
・腐りゆく天使 (夢枕獏)
・終わらざりし物語 (トールキン)
・赤い高粱 (莫言(モー・イェン))
2004/10/5
2004/8 女たちのジハード(篠田節子)
今も昔も、女性が自立して生きるのは難しい。でも、頑張る彼女らの生き方には感動を覚えるのです。
1.女たちのジハード(篠田節子)
働く女性たちの一生懸命ストーリー。出版されてから10年もたっていないのに、とっても古く感じる。みんな、嫌なところもありながらステキな女性で応援したくなるけど、「力を入れるところが違うよ、古いよ」って言いたくなる。でも、この10年で変わったのは会社のほうですね。彼女らの時代があったから、会社も社会も変わってくれたのです。
高校の時に読んだこの短編、実は真相を理解できていませんでした。パリに住む日本人カップルが、スペインの古都サラマンカの人々と出会い、「平凡な生活の連続こそ大切と感じやり直す決意をする」という話ですが、なぜ彼らが「人生をやり直す」ほど悩んでいたのかわからなかったのです。再読してやっと理解できました。この未婚カップルは「堕胎」したのですね。
土方歳三にひいきにされた、京都島原の芸妓である糸里。実はこの本、途中まで読んだ所で、読む気を失いました。運命に流され、男にすがって裏切られる芸妓の話なんて読みたくない! でもこの本は、運命に挑戦して力強く生きる女性たちの話でした。最後の最後、糸里は運命に挑戦し、決然として自分の生き方を選び取り、「男に生まれ変わりたいか?」と聞く土方に対して、決然と答えます。「わては何べん生まれ変わろうと、おなごがよろしおす」。決まったね。^^
次点
・聖地エルサレム (平山健太朗)
その他今月読んだ本
・さらばベルリン (ジョゼフ・キャノン)
・コード・トゥ・ゼロ (ケン・フォレット)
・プリッツィーズ・ファミリー (リチャード・コンドン)
・ドロシーとアガサ (ゲイロード・ラーセン)
・パンドラ・アイランド (大沢在昌)
・南仏のトリュフをめぐる大冒険 (ピーター・メイル)
・令嬢テレジアと華麗なる愛人たち (藤本ひとみ)
2004/9/10
2004/7 半身(サラ・ウォーターズ)
読書ノートをつけはじめて1ヶ月。毎月の纏めに、ベスト本の紹介をつけてみることにしました。記念すべき第1回目の第1位は、新進気鋭のサラ・ウォーターズ!
1.半身(サラ・ウォーターズ)
本来はひとつであった存在が引き裂かれ、一旦出会ったら運命的に引き寄せられることになる存在が、互いの「半身」。若い女囚シライナに出会い、彼女を自分の半身と信じていく令嬢マーガレットの悲劇が、日記の形で綴られていきます。オカルトかと思ったら、意表をついて、思い切りリアリスティックな結末。やってくれるね。^^
2.あしたのロボット(瀬名秀明)
遠い未来、人類が滅んだ世界で、ロボット仲間に言い伝えられる「アトム」とか「正義の味方」というキーワードを手がかりに、自分のルーツを探しに出た少年ロボットがたどりついたのは、遠い昔に廃墟となった「手塚治虫ワールド」。ロビタやチヒロに囲まれて、カプセルの中に眠るのはアトム。はたしてアトムは完成されていたのでしょうか?
3.ヒットラーの防具(帚木蓬生)
ヒットラーの特別護衛官となった、ドイツ大使館付駐在武官の日本人。ナチスに共感を感じていた彼は、その実態を知るに連れて失望を深めていきます。加えて、祖国日本に対して警鐘を鳴らすこともままならない無力感。ベルリン陥落の日、市民の犠牲を見殺しにして首都を脱出しようとするヒットラーに対して、彼がとった行動とは・・。
次点
その他今月読んだ本
・アップ・カントリー (ネルソン・デミル)
・ICO-霧の城 (宮部みゆき)
・プレイ (マイケル・クライトン)
・いぬはミステリー (アシモフ)
2004/8/3
2004/6以前
読書ノートをつけはじめたのは2004年7月からですが、もちろんその前にも、たくさん本は読んでいます。でも時間を遡って読書ノートをつけられるものではありません。絶対に無理!ただ、あるネットサークルの「書名しりとり」に、数冊の紹介を書きました。お勧めの本ばかりという訳ではありませんが、リストには入れておきます。
いきなりコミックですが、このシリーズはいいですね。圧巻は、最終第7巻。「人類の唯一の希望である、壮大かつ崇高な地球の再生計画の前では、個人の価値など取るに足らないと」と言う墓所の主に対して、ナウシカの返答は痛快です。「違う!命は闇にまたたく光だ!」
歌の翼に (トマス・M・ディッシュ)
高校生の時にこの本に出会ってよかった。何度も読み返したのです。「飛翔」とは、精神を開放し、世界を飛び回るフェアリーになること。幼い頃には母に、新婚初夜には妻にフェアリーになられてしまったダニエルの夢はもちろん、自分も「飛翔」することなのですが、彼には天分がなかったのです。私が自分の世界を広げようと思ったのは、この本の影響もあったのです。
SFの面白さを教えてくれた本。心理歴史学者のセルダンが予測した「銀河帝国の滅亡」による、長い暗黒時代を避けるため、人類の叡智を集めたファウンデーションが作られました。でも、それは2つあったのですね。「銀河に広がった人類にとって、辺境で放射能にまみれた地球が忘れられた存在」との設定が、狭いリアリズムにとらわれていた私の感覚をブッとばしてくれました。^^
東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (遥洋子)
読書ノートをつけはじめる、ちょっと前に読んだ本です。タレントの遥さんが、フェミニズムの鬼・上野千鶴子ゼミで学生たちと一緒に学びます。はじめは、言葉も、何をやっているのかもわからない所から、彼女は何かを掴み取るのです。目的意識を持って学ぶことの大切さと、あらためて学び直すことの難しさをビシバシ感じました。私も今になって「何を学んでおけばよかったのか」を痛切に感じるのですが・・。
塩野さんの最高傑作といえば『海の都の物語』・・と思っていましたが、もちろん今なら『ローマ人の物語』ですね。毎年1巻で15年かけて完結させるとの計画は遠い将来のように思えたものですが、ついに今年で完結。歴史にも素人で小説家でもない塩野さんが、これだけのものを書くというのは素晴らしい。鋭い知性と、歴史上の人物に惚れてしまう感性との組み合わせ、初期の本書でも感じます。
『マルティン・ベック』シリーズ(ペール・ヴァールー、マイ・シューヴァル)
10年間にわたって10作品が書かれたスウェーデン発の「社会派警察ミステリ」ですが、「10年間の社会の変化」を俯瞰できるようなシリーズに仕上がっています。著者が警鐘を鳴らしていたのは、「アメリカ的社会の不可避的な到来」だったようにも思えます。
【その他】
・魅せられたる魂 (ロマン・ロラン)
・ブラックダリア (ジェームズ・エルロイ)
・プリズンホテル (浅田次郎)
・スカヤグリーグ (ウィリアム・ホアウッド)
2007/1